俺と鬼と賽の河原と藍音さんィ。











「藍音さんやーい」

「なんでしょう」

「なあ、休暇とか欲しいと思わんか?」

「……言っている意味が、わかりませんが」

「ん? いや、働かせすぎかなと思ってだな。これでも心配している訳だ」

「……安心しました」

「何故に」

「消えろと言っている訳ではないのですね?」

「誰が。お前さんが居ないともう俺駄目だと思うね」

「……。色々と問題のある発言だと思いますが」

「そーかい」

「それでですが、私が休暇するとして一体誰が家事を?」

「あー、一週間ゆっくり休めと言えないのが情けないとこだが、二日や三日は俺がやるさ」

「では……、一日だけ休みをください」

「ん、それだけでいーのか?」

「十二分です」




















ひっそりと佇む花のように。





















 で、そんなこんなで藍音に休暇を出してみた俺だが、その藍音は正に俺の隣に居る。


「……どういうことだ」

「なにがでしょう」


 休暇を言い渡したはずなのに、なんで縁側で茶を啜る俺の隣に藍音はしずしずと俺の隣に座っているんだ。


「なんでお前さんが俺の隣に居るんだ?」

「理由なんて必要でしょうか。それとも、邪魔ですか?」

「いや、そうじゃなくてだな。こう、行きたいとことかねーのか?」


 藍音は、いつも家事をこなしている。正直、藍音の時間が取れているか不安だったりするのだ。

 しかし、藍音は何を想っているのか。


「貴方の隣、と答えますが」


 と、彼女は言った。


「……いや、そうじゃなくてだな。もっと、ねーのか? 買い物がしたいとか、なんか」

「貴方とであればどこまでも。魔界にだってお供します」

「いまいち噛み合ってないな。やめよう」

「……そうですね」


 不毛な会話はやめよう。藍音の気持ちの問題と言う奴だ。


「まー、結局。これでいいのか?」

「ええ、この上なく満足です」


 藍音がいいと言うなら、俺にどうこう言う資格はない。

 ただ、ちょっと気になる。


「楽しいか?」


 俺が問えば、いちいち藍音は俺の顔を見て答える。


「……安心します」

「そーかい」


 まあ、確かに休みってったって、人それぞれ。一人で出かけたって楽しくない時もあるしな。


「貴方はどうですか?」





「……落ち着くな」

「そうですか」

























「……どういうことだ」

「何がでしょう」


 昼飯の支度をする俺。

 手伝う藍音。


「お前さんは休みじゃなかったのか」

「休みですが」

「じゃあ、そこで食材を切っているのはなんだ」

「手伝いです。家事をしているのではなく、家事を手伝っているのです」

「ぬ」


 言いきられてはぐうの音も出ない。それこそ休日の過ごし方など自由。

 仕方がない、と俺は料理に集中した。


「ところで、今作れるってったら、ラーメンか炒飯と、チキンカチャトーラくらいだが、どれがいい?」

「何故イタリア料理が混ざっているのでしょう」

「黒歴史だ」


 昔々一念発起してやめた思い出があるのだ。イタリア料理には。

 よって俺が唯一作れるイタリアっぽい料理であると言って過言でない。


「では……、カチャトーラをお願いできますか?」

「味は期待すんなよ?」

「薬師様が作ったものなら泥でも食べますが?」

「泥なら出さねーよ」


 いいながら、言われた通りカチャトーラを作る。ちなみに三十分煮込む必要があるが、それを加味して早めに昼飯を作り始めたので問題ない。

 塩コショウの味付けをして、薄力粉をまぶした鶏肉と、冷蔵庫にあった野菜を別に炒め、焼き色がついていい香りがしてきた辺りで、それらを鍋へ。

 あとはブイヨンやら白ワインとか、水煮トマト等などをぶち込んで、三十分煮込む。

 その間、俺は椅子に座って本を読み、藍音は何が楽しいのか、そんな俺を見てずっと立っていた。

 そうして出来上がった料理と、後は皿に適当に野菜を盛ったサラダを付けて、昼飯が完成した。


「頂きます」

「おう」


 二人で、食事を始める。由壱と由美は玲衣子の家に遊びに行っていて居ないし、憐子さんに銀子も二人でどこかに行ってしまった。李知さんは仕事。

 珍しく二人きり。まるで昔に戻ったかのようだ。

 と、そんな時、ふと。


「薬師様。一つお願いがあります」

「なんだね、言ってみるといい」


 藍音から頼みとは珍しい。いつもなら勝手にやってきたりするのに。

 ただ、大抵のことなら聞く気になった。いつも藍音には苦労ばかりかけている気がするのだ。

 だが、しかし。


「休暇は返上させてください」


 それは意外なものだった。


「はい?」


 いまいち、よくわからないままで俺が何も言わないでいると、藍音は俺に告げた。


「私にとって、家事は仕事じゃありません。それに気がついたのです」

「じゃあ、なんなんだ?」


 一体なんだ、と言う問いに藍音は真っ直ぐ俺の目を見つめて答える。


「私がしたいことです」


 そんなに家事が好きなのか。いや、違うか。

 もっと別の何かじゃないかと思う。


「ただ、お傍に置いてくだされば、それでいいのです」

「そいつは……、あれだな。その働きにどう返したもんかね」


 そこまでしてやってくれるならば、こちらからも何か応えたいものだ。

 しかし、どうやって応えるかが問題である。

 それを考えていると、藍音は首を横に振った。


「問題ありません。貴方からは十分に沢山貰っていますから」

「何を貰ってるんだか」

「ただ、たまに我侭を許してくださると嬉しいです」

「幾らでも、好きにしろよ。ただし、今日は休みな。主婦だって家事をサボる日はある」


 言ったら、なんだか一瞬だけ、藍音がふっと笑った気がした。


「はい。わかりました」


























 そして、昼飯を食ったらまた縁側へ。


「なんか俺ら、よっぽどやることねーんだな」

「暇なのは、嫌いでしたね」

「いや、今はそんなに。悪くねーと思ってるよ。暇だけど退屈じゃない」


 むしろ。


「隠居したいね」

「……無理でしょう」

「だろーよ」


 どこに隠れても探し当てられる気がする。

 むしろ運営から逃げ切れるわけがない。


「ところでなんだがさ、本当にどっか行きたいとこねーの? 俺なら付き合うが?」

「そうですね……、一つだけありました」


 おお、あるのか。

 俺はなんとなく関心を覚えつつ立ち上がる藍音を見上げた。

 そして。


「――貴方の膝の上です」


 極めて自然に、藍音は俺の膝の上に足を延ばして座っていた。


「あー……。満足か?」


 問えば、藍音はこちらを向かないまま答える。


「……はい。とても」


 ただし、この体勢は俺がとっても手持無沙汰で不安定だ。

 なので、なんとなく後ろから抱きしめるようにして藍音の頭に顎を乗せる。


「お前さんて、なんか、あれだな。そう、ミステリアスってやつだな」






「……そうですか? この上なくわかりやすいと思いますが」





















ただの路傍の花のように。