俺と鬼と賽の河原と。
それは、薬師が出掛けたある日のこと。
「薬師様の武勇伝……、ですか」
藍音は、由壱に質問されて呟いた。
「うん、兄さんってどうせ現世でもあれだったんでしょ? だったら色々あったんじゃないかなってね」
「まあ、それはそうですが。なるほど武勇伝、ですか」
「ちょっと気になってね。面白そうだし」
すると、藍音は一つ肯いて、言った。
「わかりました。では、お話するとしましょう」
薬師昔話 余興の話。もしくは前座。
藍音は言う。
謡うように、嘆くように、誇るように、喜ぶように、悲しむように。
「とある所に。人の心を読める、匣詠という能力者がいました」
「うん」
由壱の相槌に合わせて話は進む。
「そして、彼女は人々から忌み嫌われ、そして彼女は人の下心が目に見えてしまい、特に男が嫌いでした」
「うんうん」
「それで、天狗の仕事として、彼女を殺す仕事が舞い込んで来ます。薬師様はそれに従い、彼女に会いに行きました。それにより彼女は」
「うん」
そして、これから話は加速する――。
「惚れました」
なんてことはなかった。
「え、えぇええええええええええ――?」
「多分色欲が無い薬師様と相性が良かったのでしょう……、どうしましたか?」
「いま、端折ったよね!? 大事な所全部一刀両断して畳んで丸めて放り投げたよね!?」
「全部語ると長いので」
「いや、そうかもしれないけど……」
「それに、まだまだいますので」
「えっ、いや。まあ、確かにいるだろうとは思ったけど」
「では、次に行きましょう」
「ある所に、凄い仙人、いえ仙女とでも呼びましょうか。そんな人がいました」
「うん」
「そして、彼女は実に人嫌いでした。俗世の欲を捨てた彼女にしてみれば、人間は実に醜く映ったそうです」
「うん」
「そして、そんな折、彼女の住む山を通りたいからなんとかしてくれ、と薬師様に相談が入ります」
「うんうん」
「薬師様がそちらへ出向きました」
「なるほど」
「そして、仙女が」
「うん」
「惚れました」
「……うん」
「俗世の欲が無かったので相性が良かったのでしょう……、どうしました?」
「いや、うん。なんというかね、うん。続けて」
「次に、長い時を生きた一人の女吸血鬼がいました」
「うん」
「彼女はとても強く、孤独でした」
「うん」
「そんな時、ふと、薬師様の元に吸血鬼退治の願いが舞い込んで来ます」
「うん、話の展開は読めた」
「惚れました」
「うん」
「薬師様の包容力が原因でしょう」
「そんなこったろうと思ったけど……、武勇伝って……、武勇伝って」
「とある所に、とある城の姫がいました」
「うん」
「その姫の国は実に弱小で、存亡の危機にありました」
「うんうん」
「そして、なんの因果か姫が護法童子として薬師様が呼び出されてしまいます」
「わかった、うん」
「惚れました」
「うん」
「それはもう国は守るわ、無自覚で姫は口説くわで惚れないわけないでしょう」
「……うん」
「ある所に、姫娼と呼ばれた男を惑わす魔性の娼婦がいました」
「うん」
「ある日、その姫娼を擁する組織をどうにかして欲しい、と薬師様に話が舞い込んで来ます」
「うんわかった」
「惚れました」
「あるところに河童がいました」
「うん」
「惚れました」
「ある所にクダンという妖怪がいました」
「うん」
「惚れました」
「ある所に、現人神と呼ばれた少女がいました」
「うん」
「惚れました」
「……うん」
「それで、どれが聞きたいでしょうか」
「あれ? 選択式なの?」
「はい。普通に語ると長いので」
「そうなんだ」
「まあ、一部始終を見つめた訳ではないので詳しくは薬師様に聞いた方が確実だと思いますが」
「そっか、じゃあ……」
選択肢
一、読心能力者の話を聞きたい。
二、仙人の話が気になる。
三、吸血鬼がいい。
四、お姫様っていうのがなんか気になる。
五、そんなことより藍音さんと兄さんの馴れ初めを聞かせてよ!
六、姫娼ってのが気になるかな。
さあ、どれ?