テーマ『猛暑』
『憐子さんと暑さ』
ソファの上でぐったりと。
「なあ……、憐子さん」
「どうしたんだい?」
「暑い。離れてくれ」
「いやだと言ったら?」
「逃げる」
「追う」
「……暑いだろ」
「ちがうよ、暑いからこそ、だ」
「言っていることがようわからんね」
「そうだな、寒い寒い雪の日に、こたつの中でアイスを食べたりしないか?」
「まあ、しなくもない」
「そして、寒いのに寒中水泳、水垢離その他を行ったりする人間はいるな?」
「まあ、いるな」
「更に、暑い夏の日にだって、熱いラーメンやカレー、その他辛いスタミナ料理なんて食べて精を付けようとするだろう?」
「それで?」
「暑い時にあえて暑いことをする。これすなわち伝統。暑いのにあえてくっついて体温を楽しむのも風情だよ、薬師――」
「そうなのか」
「そうなのさ」
数十分後。
「……」
「難しい顔をしてどうしたんだい薬師」
「いや、今になって騙された気がしてな」
「気のせいさ」
『銀子と扇風機』
居間にて。
「暑い」
「暑いな。どうにかならんもんかね、錬金術師殿」
「……そんな私ですら忘れていた設定を持ち出されても」
「おい」
「という冗談は置いておいて」
「とりあえずなんかねーの?」
「ある」
「どんなん?」
「えきたいちっそー」
「おい」
「だめ?」
「だめ」
「じゃあ、次行く」
「おう」
「はい、冷気の石」
「おう、心なしかひんやりとしてるな」
「これを叩き割ると、周囲五百メートルが-273.15℃になる」
「それ絶対零度って言うんじゃないか?」
「意外ともの知り」
「馬鹿にしてんのか」
「それより」
「それよりなんだ」
「諦めて私と扇風機に当たった方がきっと涼しい」
「ま。そーさな。……ああ、そうだ、怪談でもするか。定番だろ」
「ダメ、ゼッタイ」
『ビーチェと眼鏡』
学校にはクーラーを付けるべきだ、と切に願う。
「よぉ、今日も暑いなビーチェ」
「暑いですね、先生」
「お前さんの眼鏡からその内火が出るんじゃないかと心配だぜ」
「あわわっ、先生、眼鏡を取らないでくださいっ。ふぎゃっ」
「おっと、大丈夫か? 慌てなくたって、ちゃんと返すっての」
「うう、先生ぃ……」
「おお、見てくれ、やっぱり黒い紙ならあっさり焼けるぞ」
「そんなことのために僕の眼鏡取ったんですか?」
「おう、満足したのでお返しするぜ」
「あわわっ……」
「大丈夫か? 顔暑いぞ?」
「あっ、大丈夫です」
「本当か? ちょっとデコ貸せ」
「はにゃっ!?」
「やっぱ熱いぞ? 熱中症とか怖いんだからな? ほら、保健室だ」
「か、かかかか、かか、抱えられて――!?」
「うお、気絶した!? おーいっ、保健室ー!」
『閻魔と閻魔宅』
「ただいま帰りました」
「おかえりー」
「なんで貴方はソファからずり落ちた格好で落ち着いているんですか」
「そりゃあれだろ。ここクーラー効いてるからな。どんな格好でも落ち着くんだ」
「でもですね、そのこうもりみたいな恰好で落ち着くのもどうかと思います」
「クーラーはいいな。最高の文明の利器だ。お前さんのことだから皆暑いのに自分だけが、とか言って使ってないのかと思ったが」
「前はそうしてたんですけど……、書類に、書類に汗が落ちるんですっ! 頑張った書類が滲むんです!!」
「すまん。……なんかいやなこと思い出させたみたいで」
「いえ。にしても外は暑いですね」
「ああ、そだ、ほれ、これで汗ふけよ。なんかエロいぞ」
「え、えろっ!? ……いきなりなにを言うんですか!」
「よろしくないので拭いとけ拭いとけ」
「まあ……、そうですね」
「にしても、涼しいっていいなー……。寄生してー」
「……。薬師さん」
「なんだ?」
「クーラー効かせておきますので、しばらく住みませんか」
「目が怖いぞ、閻魔様よ」
「どうでしょう」
「……。そんな邪悪な誘いには勧誘禁止だぜ」
「今一瞬考えましたね!?」
「いや、んなことねーって」
「たまには素直になりましょうよ!!」
「ま、ちょくちょく来てやるから。涼しいしな」
「……クーラーがあってよかったです」
『愛沙と一緒』
ふと出かけたら、ばったりと出会う。
「よお」
「こんにちは」
「お前さんも帰り?」
「ええ。買い物が済みましたので」
「ふーん?」
「……い、いきなり私の頬に触れて一体何を?」
「いや、なんか白いからひんやりしてそうだなと思ったら本当にひんやりしてた」
「貴方は暑いのだけれど」
「おう」
「て……、手を離しては頂けないので?」
「おう。あっちいもん」
「な、なんだが、くらくらしてきて倒れそうなのだけれど」
「じゃー、手ぇつなごーぜ」
「べ、べつに貴方のためにひんやりとしてる訳じゃ――!!」
「駄目か?」
「す、少しだけなら――」