テーマ「雨」
『憐子さんと生返事』
雨が降れば外には出るまい。
さすればすることなんて、本読みくらい。
「薬師、暇かい?」
「んー、暇だけどな」
「じゃあ、私がお前の隣に座っても、なんの問題もないな?」
「んー」
「それなら、お前の肩を借りても問題ないな?」
「んー」
「それなら、お前のその本を持ってない方の手、抱きしめても問題ないな?」
「んー……」
「このまま寝てしまっても良いな?」
「んー……」
「じゃあ、このまま押し倒してことに及んでもいいな?」
「いや、それは困る」
「じゃあ、これで我慢しよう」
「んー……」
『前さんと酒とか』
居酒屋の窓からのぞく景色には、しとしとと雨が降り続いていた。
「ねえ、薬師」
「なにかね、前さん」
「薬師って、酔ったことあるの?」
「酔ってるぞ? 今まさに」
「そんなんじゃなくてさ。もっと前後不覚になったことってある?」
「ふむ、あるけどな。若いころに」
「どんな感じ? 笑い上戸とか?」
「……わからん。記憶飛んでたからな」
「そうなの?」
「寝てて、起きたら憐子さんの膝の上だった」
「……酔わせてみたいかも」
「日頃の仕返しか知らないが、前さんにゃ荷が重いな」
「そうかもね」
「そうだろう」
「ねえ」
「ん?」
「雨、止まないね」
「止まないな」
「――ねえ、もう少し、ここに居ようか」
「ああ、そうだな」
『李知さんと傘と』
地獄に雨が降るならば、河原にだって雨が降る。
「傘を忘れるとはな……、私としたことが」
「おお、珍しいな」
「む、薬師か。いや、今日の天気予報では降水確率は零だったんだが」
「そうかい」
「お前は傘を持ってるんだな」
「藍音の仕業だよ。抜け目がねー」
「そうか」
「しかし、珍しいな、こういう状況」
「何か含む所があるな」
「だらしないのはいつも俺だからな」
「楽しそうだな」
「楽しいからな」
「……そうか」
「そうだ」
「お前はなぁ……、もう少し、こう……」
「ああ、そうだ、所で」
「……、ん、なんだ」
「傘、入ってくかい?」
「……そうしよう」
『藍音さんと濡れ鼠』
その日は、実に土砂降りで。
「おかえりなさいませ、薬師様……、どうしたのですか、それは」
「それは、って、濡れただけだけど」
「傘はお渡ししたと思ったのですが」
「ああ、傘、傘な。やっちまった」
「……、誰にですか」
「知らん」
「知らない人に貴方は傘を寄越す、と?」
「いや、名も知らない少年にな。困ってるみたいだったからほっとけもしねー」
「貴方は、たまに馬鹿みたいなことをしたり、無茶をしたりしますね」
「別に濡れ鼠だっていいじゃねーか」
「……まあ、お湯は沸かしていますので。早めにお風呂に入ってください」
「ほら、な?」
「なにか?」
「こうやって手拭用意して、しまいにゃ風呂まで沸かしてくれる」
「メイドとしては当然です」
「だから俺はこうやって馬鹿やったり無茶してるんだよ」
「甘やかし……、過ぎましたね」
「信頼してるんだっつの」
「……そうですか。――そうですか」
『閻魔と雫と』
「うお、帰って来たと思ったらぐっしょりもいい所だな」
「傘を忘れたのですよ……」
「んなこったろうと思ったぜ。そこに正に傘刺さってるからな。ほれ、手拭」
「あ、ちょ、あ……、もうっ、自分で拭けます!」
「うるせー。好意は素直に受け取っとけよ。そだ、風呂沸かしてあるから入るといいぞ」
「あのー……」
「ん?」
「いえ、あのですね。もしかすると、藍音のあの仕事ぶりは貴方から受け継がれたものなんじゃないでしょうか」
「いやいや、あれと俺を一緒にしちゃいかんよ。俺は精々世話焼きくらいで、ガチ本職と比べるなら足下すら許されんよ」
「でも、やっぱり骨子は貴方からだと思います」
「ふーむ、そういうもんかね」
「そういうもんです」
「ああ、それと、風呂入ってる間に飯作っとくからそのつもりでな」
「やっぱり、お見事じゃないですか」
「ん?」
「何でもありません。では、入ってきますね」
「ああ。あ、そうだ」
「はい、なにか?」
「いやな、藍音と俺の格の違いっつのはあれだな」
「はい?」
「――こういうとき、一緒に風呂に入ってく根性は俺にはねーや」
「ああ……。でもそれはちょっと……、残念かもしれません……」
ちなみに、書いた順です。これ。思いついた順とも。拍手の方では、前さんが先になってましたが、思いついたのは憐子さんの方が先だったのですね。
ということでテーマ、雨でした。