薬師大天狗奇譚
「薬師殿」
「なんだ。もうこのやり取りも恒例化しているが」
茶屋に呼び出され、薬師は美香と会話を行う。
「で、何の事件だ?」
「鬼退治ですよ。吉備で」
「吉備? またアレな言い回しだな」
言って、薬師は顎に手を当て考える。
吉備とは、現在の岡山県の辺り。
とすると。
「おいおい、桃太郎かよ」
「そうです、今回は鬼ヶ島に鬼退治ですっ、薬師殿!!」
薬師は、思わず呟いた。
「また面倒な……」
未だ茶店。薬師は団子を頬張っていた。
「ところで、お前さん刀はどうしたよ」
ふと、薬師は気付く。
美香の腰元にいつもあるはずの刀がない。
すると、美香は得意げに言った。
「刀を抜かぬことこそ剣の極意、とある人に諭されまして。その極意を得るためにこうして刀を持たずにいるのです。やはり、刀などなくても強敵を倒せてこそ、という意味なのでしょうか」
「馬鹿か」
「な、何を仰るのですか!」
「いや、馬鹿だろ」
「なんなんですか薬師殿ぉ!」
「いや、多分それじゃその極意とやらに辿り着ける日はいつになるやら」
「何を仰りますやら。この私、剣術には少々の自信がありまして」
「半人前が何言ってんだか」
溜息を吐くように薬師が口にした。
「なんでですかっ」
「頭使う事件となりゃ俺任せのお前さんが、っつー話だよ」
鬼殺奇譚
「まったく、薬師殿はずけずけと……!」
あれから二日。
一人、美香は備中の大地を踏んでいた。
その隣に薬師の姿はない。
茶店での一軒で、二人は喧嘩別れをしてしまった。
正確には美香が一方的に立ち去っただけなのだが。
「私だって一人で事件の解決くらいできるはず!」
結局、薬師に認められず、半人前扱いであることが悔しいだけなのだが。
(薬師殿も、私が一人で事件を解決し、極意に辿り着いたともあれば舌を巻かずにはいられないはず)
別にさほど浅ましい考えでもない。
剣を帯びておらずとも、美香は一介の鬼ごときに負けるようなことはない。
それこそ、酒呑童子でもつれてこなければ、と言ったところか。
さらに、いざとなれば奥の手の一つや二つ。
それ故に、今回の件は些か余裕がある。
今回の件は、桃太郎伝説の元となった温羅伝説の舞台、鬼ノ城に端を発する。
すべては、鬼ヶ島の元と言える、鬼ノ城に鬼がすんでいるという噂から始まった。
鬼城山を歩いていた猟師が、巨躯の人影を見た、というのがその噂。
そこから、更に幾らかの目撃者が現れ、周辺住民の不安が煽られた。
そこに現れたのが、とある数人の浪人だ。
噂を聞き、集ったという彼らは、鬼を討ちに山へと登った。
目的は、売名行為だったと言ってもよい。町道場師範であれ、仕官先を探す浪人であれ、鬼を倒したという箔があれば、道場の繁栄も仕官も夢じゃない。
しかし、そこからが問題だった。
彼ら全て、死体となって次の日発見されたのである。
それからというもの、幾人もの腕自慢が鬼ノ城に向かったが帰ることなく、屍骸となり返ってくることとなった。
周辺住民は恐れて近づくこともない。
「まずは現場検証。出てくるのは鬼と思しき相手」
それらが、美香の案件だ。
ただし、美香の目的は人間の平穏のために鬼を斬る事ではない。
人が近寄らぬとなって、鬼が町へ降りてくることがないようにするのが美香の目的だ。
ただ、その目的に当たって、切らねばならぬと判断すれば斬ることも致し方なし。
美香は妖怪側に立つでも、人間側に立つでもない。仲立ちの役割だ。
故に、鬼が人が現れなければ鬼ノ城で平穏に過ごすというのなら斬ることもない。
「さて、ここが……」
美香は、半刻ほど歩き、鬼ノ城へと入る。
城跡といえど、何分古い。
周辺住民も石垣があることは知ってはいるが、ここが城跡だ、と確信を持って言えるものはいないほど、木や草が生い茂っている。
そこが鬼ノ城だったということを知るのは、一部の古くから生きた妖怪だけだ。
「さて、何か居らぬものか……」
きょろきょろと、美香は辺りを見渡した。
別に、すぐさま見つかると期待するでもない。
こういったものは地道な作業だと理解している。
これから先、毎日のように探索を繰り返すことになるだろう、と自分の胸に言い聞かせ、美香は決意した。
「あ、そこな貴方。何をしておいでか?」
そんな美香に、声を掛けるものが一人。
「何奴!」
声を張り上げ振り返る先で美香が見たのは、六尺ほどの長身の男だ。
一瞬鬼かと身構えるが、否。角もなければ、肌の色も人そのもの。
「自分、吉備 常彦と申す者……、趣味は、鬼退治と言った所かな?」
若衆髷に、葵袴。新撰組を彷彿とさせる青の羽織。
どことなく幼さと爽やかさを感じさせる男だった。
「もしや、鬼の噂を聞いて……?」
「ああ、どうも出る、出ると騒がしい。気になって歩き回っているが、鬼は姿も現さず。この体躯で鬼と間違えられる始末」
そう言って、常彦は苦笑した。
「ははぁ、それはまた災難な」
気の毒そうに、美香もまた、笑みを返す。
「ところで、貴方も鬼を探しに来たのかな?」
そうして、常彦は問う。
確かに当然の疑問である。現状刀も差していない美香が鬼退治など、誰も信じるまい。
「そうだけれども。今のところ、然したる収穫もなし」
「ふむ、この辺には詳しいのか?」
「別角度からの情報を知っているだけで、然程」
別角度、とは妖怪の類の知識だ。
この辺りが鬼ノ城である、などの知識を得ているが、しかし、この山の歩き方は地元の人間のほうが詳しい。
「ふぅむ。自分も、昔一度ここに来たことがあるだけで、そのうえ、随分様変わりしているようだし……」
「左様で……」
「どうやら、自分に失せ物捜索の才はない模様で。どうせならば、慣れた歩きをする貴方と行動を共にしたいのだが……、こう見えて自分、戦力になる。如何かな?」
「ああ、それならば。そちらのほうが効率も良い」
毅然とした態度で美香は応じる。
情けない態度は薬師の前でだけ、といっても良い。上の人間に頼りに行くのだから当然といえば当然だが。
「では、行くとしよう」
颯爽と歩き始める美香。
自信満々で、彼女は奥へと歩んでいった。
「ふむぅ……、初日から見つかるわけもないとは思っていたものの……」
宿で湯につかりながら、美香はぼんやりと呟いた。
「影も形も掴ませぬとは。流石に鬼、といったところか……」
日が暮れる前に戻ってきたが、なにも、手がかり一つ掴めぬまま今回の探索は収束した。
常彦と別れ、普通に引き返すこととなったのだ。
「鬼、か」
薬師から聞いたことがある。
鬼とは隠であり、潜むものだ、と。
とすれば、やはり見つけるのは容易ではないらしい。
(薬師殿がいれば……)
彼がいれば、探査の一つで簡単に決着がついたことだろう。
と、考えてぶんぶんと首を振った。
(今回ばかりは頼らないと決めたはず……!)
決意を新たに、胸元で拳を握る。
のだが、その決意をへし折る様に、くしゃみが漏れた。
「っくしゅん……」
溜めていた気合が、漏れでてしまったような。
そんな雰囲気で、情けなく、美香は呟く。
「やくしどのぉ……」
「ところで、貴方は何故鬼を退治しようなどと?」
山中、常彦に問われて美香は答えた。
「人と化生は住み分けが肝心。人里に下りてくることが無いよう厳重注意に来たまで」
「ふむ、自分は鬼に殺意があるのだけれども、よろしいのかな?」
笑顔で常彦が問う。
美香は表情を変えない。
「もう既に死人が出ている以上は、私が口出しすべきではない」
たとえ思うことはあれども。主に仕える人間として、私情を挟んでもいい場面と悪い場面があることを、彼女は知っている。
お互い、そっとしておけば何もしないというなら、そうあるべきだ、というのが最善と思っていながらも、そううまくはいかないことも知った。
「そちらは、如何様な事情で?」
逆に、美香は問い返した。
常彦は、首を傾げる。
「ふうむ……、はて、何故だろうな」
「何故……、って」
「いや、最初に言ったと思うのだがね。多分、趣味だ」
そう言って、おどけて笑う常彦に、よく分からない人だ、と美香は感想を下した。
(趣味、とは言うが、要するに生業なのだろう。それこそ、理由がなくても狩るほどの)
勝手に、美香は同じ側の人間だと判断する。
化け物を相手に立ち回る、妖怪の世界を往く人間だろう、と。
「にしても、ここに鬼などいるものだろうか」
不意に、常彦が空を見上げた。
「私はここに来て二日目だから、なんとも言えないが……」
「自分は結構前からいるのだが……」
「左様で」
「それに、前来た時にいた鬼は滅したはず」
その言葉を聞き、美香の脳裏に閃くことがあった。
(もしや……)
「常彦殿。貴君は夜の探索は行っていない?」
「ああ、夜は寝ているが、それがなにか?」
(なるほど、今回の相手は鬼本体ではなく、鬼の霊魂やも……)
それであれば、日が暮れる前に帰る美香達の前に姿を現さぬも道理。
「今日のところは、一旦引き上げるとしよう」
きっぱりと美香は言う。
そう、また夜にこなくてはならない。
夜、再び山を歩く。
些か危険であるものの、仕方のないことと言えた。
そもそも妖怪の行動時間は夕方から夜にかけてである。
(しかし、鬼の霊魂の相手ともなれば、私にどうにかできるのか……)
暗い山に、二人歩きながら、美香は考える。
美香は、剣士だ。
些かばかり、外法の側にいるが、術に優れていない。
そうすると、霊との戦いは難しくなってくる。
(だが、対策を立てるためにも相手を知ることが重要……。それに、地縛霊なら逆に都合がいい)
結局、妖怪が領土侵犯しないのなら、美香が言うことは何もない。
(来るなら来い……! どんな相手でも滅して、薬師殿に――!)
気合は十分。
身構えて、敵が現れるのを待つ。
しかし。
その夜も鬼が現れることはなかった。
次の日も、その次の日もだ。
一週間経ったって、それは現れなかった。
その日は、美香は常彦が来る前に一人で探索を行っていた。
「もしや、感づいて場所を移してしまったとでも……?」
どこにいるのかも分からない鬼に、焦れてきた頃。
「どうしたものやら……」
それは現れた。
「よお、美香」
「……え? 薬師殿!?」
唐突に後ろから現れたのは、如意ヶ嶽薬師、それそのものである。
「苦戦してるみたいだな」
「べ、別に大したことはありませぬよ!」
そう言って、美香は強がって見せた。
「自分が如何に無能か自覚できてきた頃か?」
「い、いつも薬師殿はそうやって……!!」
「俺は見つけたぞ。今回のお相手をな」
「なっ……、いつの間に?」
美香は思わず面食らった。
一週間探しても手がかりさえ掴めなかった鬼の正体をいかに掴んだというのか。
「まあ、うん。お前さんのことまったり見てたからな」
「えっ……。見てらしたのですか!?」
「まーな。お前さんだけじゃ心配だし」
「や、薬師殿には思慮というものが足りませぬ! 覗き見など、男児がすることでは……」
言いながらも、内心は嬉しいものがあった。
いつも文句を言いながら隣を歩いている薬師が、心配して来てくれたとあっては、仏頂面になるにも必死さが必要になる。
「……心配してくださったのですか?」
「一応な」
「い、要らぬ世話ですっ! 私一人でもこの事件を華麗に解決して見せます!」
「じゃあ、敵見つけたのかよ」
「それは……」
まだですが、と続けようとする美香。
それを、薬師が遮った。
「来るぞ。敵さんが」
「鬼がですか!?」
薬師が、山道の麓の方を見つめる。
美香もそれを追って、薬師と同じほうを見た。
「……そもそもだがね。固定観念に囚われ過ぎちゃいないか? 鬼ノ城で巨躯だからって鬼ってのは早とちりって奴だ。まあ、ここが鬼ノ城って知ってる奴だからこそ引っかかりやすいし、全く無知な奴はでかけりゃなんでも鬼なわけだが」
そう言って、薬師は人差し指を一本立てた。
それを、麓へ向けて突きつける。
「そら、来たぞ」
その指の先にいたのは。
吉備常彦、その者である。
「え……、薬師殿?」
「そもそも、一週間探していなかったんだろ? ついでに、俺もいないことを確認した。そんで、巨躯ってなっちゃあ、こいつしかいないだろ」
「はて、そこの御仁はなにを……。自分は鬼を探しているだけだが」
「お前さんが鬼だよ。吉備津彦命さんよ」
「薬師殿、何を仰っているのです。彼は鬼を探して……。……吉備津彦命?」
美香は思わず言葉を止めるほどに、驚愕した。
「そりゃ、鬼を探しもするだろうよ。なんせ、こいつは鬼と戦うことを運命付けられた」
吉備津彦命、それは。
「――桃太郎様なんだからな」
つまりである。
常彦、桃太郎が、今回の件で浪人を幾人と切り捨てた男だ。
「そりゃ見つかるわけないさ。本人が自分を探してるんだからな」
「よく、言ってる意味がつかめんが、説明を求めたいな」
「要するに、皆はあんたが鬼だと思った。あんたは、その噂を聞いて、この山に鬼がいると思って彷徨った。それだけだ」
薬師は笑う。
「殺したんだろ? 浪人を全部」
「……」
「隠すこたぁない。俺は知ってるぞ。完全無欠の桃太郎様の失敗を」
ぱっと、桃太郎は目を見開いた。
「知っているのか。この人生、たった一度の汚点を」
わなわなと、桃太郎が震えだす。
しかし、それはすぐに止まり。
「そうさ。お前さんのたった一度の失敗は――」
「自分のたった一度の汚点は――」
二人の声が重なる。
「――鬼殺しを楽しんだこと」
おもしろい
おもしろい
のこらず鬼を攻めふせて
分捕物をえんやらや
「あの屈強な鬼どもを切り伏せて、屈服させるあの感触が忘れられない。宝物などどうでも良かった。あんなものは爺や婆にくれてやった。それよりも鬼を斬りたかった」
惚けた顔で、桃太郎は言った。
「腕を切り飛ばし、恐怖に歪む顔といったらない! 射精した時を何倍も上回る快感!! 忘れられない……」
笑っている。
狂気的な目で、そいつは笑っていた。
「斬らせろ! 鬼はどこだ!! 斬らせろ! 斬らせろ! 斬らせろ斬らせろ斬らせろ!!」
「すげーなおい。ま、鬼ヶ島みたいに鬼が沢山いる場所があるわけもなし」
桃とは、不老不死の象徴。
老いることなく、殺人衝動を抱き続ければ狂気的にもなる。
「あんな男達では駄目だ。もっと鋭く、命の危機を乗り越える快感を寄越せぇ!」
「俺が知り合いに聞いた話じゃ、最終的に三人の従者に取り押さえられてここで封印されたそうだな。ここに残った鬼の霊魂と従者を生贄に」
「斬らせろぉ!」
叫ぶ桃太郎に、薬師は溜息を吐くように呟いた。
「皮肉だな。お前さんは立派な鬼だよ。まさに剣鬼だ」
そして、構える。
「さて、来い。それとも大天狗じゃ不満かね!?」
大上段から振り下ろされる刀。
凄まじい切り込み。並みの妖怪なら抵抗もできまい。
しかし、薬師も大妖怪。
それを錫杖で弾いた。
そして、思い切り腕へ向かって錫杖を振り下ろす。
みしり、と腕が曲がる。
折れた。確実にそのはずだった。
しかし、その腕が容赦なく薬師をつかむ。
「斬らせろ、斬らせろ……」
「これだから頭のネジ取れてる奴は!」
両腕とも確実に折った。
しかし、その腕は薬師の首を絞めている。
大きく開いた口が、今にも薬師の肉を噛み千切らんとしている。
薬師は、そんな中、美香に向かってあるものを投げた。
美香の刀だ。
「薬師殿っ!?」
驚きで動けずにいた美香が、動き出す。
「丁度いいから抜け。お前さんがぶった切れ」
「ええ!?」
「それしか能がねーくせに」
美香は思う。
今回何一つ活躍できていない、と。
この上抜かずの極意まで諦めるとあっては本当に格好がつかない。
それに、薬師ならこの程度の状況は簡単に抜け出せるはず。
なのだが。
「ほらほら、早くせんと俺の肉が削げるぜ馬鹿野郎! ごちゃごちゃ考えるなよ」
なのだが――。
「やれ美香。お前さんはそれでいいんだよ」
余りにも薬師の声が心地よくて。
やすやすと、肉を削がせるわけにもいかなくて。
とりあえず、格好付けたくて。
気合一閃。
美香は桃太郎を一刀に切り伏せた。
「鬼ヶ島に鬼が一匹。そんなとこか」
「……どうするのです、桃太郎殿は」
「どうしようもねーな。こりゃ」
そう言って薬師は匙を投げた。
「なにゆえ」
「死なねーんだよ。こいつは」
桃の申し子とも言える桃太郎は、不老不死。
美香によって首を落とされたにもかかわらず、目の前には気絶しながらも無傷の桃太郎がいる。
不死性こそが桃太郎の強み。桃太郎は死なない、相手はいつか死ぬ。絶対無敵も甚だしい。
「だから、封印するっきゃねーが。それだとまた今回みたいになりかねない」
「では、いかがいたしましょう……」
薬師は、考え込んだあと、適当に呟いた。
「いっそ戦闘狂同士小次郎とやりあわせときゃいいんじゃねーの」
「投げましたね……」
「いいんだよ。それに完全にこっちの側にくりゃ、殺しの機会なんて幾らでもあるさ。殺戮の限りを尽くせる日も結構ある。そこそこ満足できる毎日が送れるんじゃねーの?
人間にしがみ付くから悪いのさ」
そう言って、薬師は桃太郎の襟首を掴んで引きずっていく。
「しかし……、結局剣の極意も得られず……」
しゅんと、美香は肩を落とす。
「……相変わらず馬鹿だな、お前さんは。ありゃ、素手で戦えって意味じゃねーよ阿呆」
そんな美香に、薬師が呆れたような視線を向けた。
「薬師殿に剣の極意がわかるのですかっ!?」
「ありゃ剣の極意っつーか……、あれだ。戦わないのが一番って話だろうがよ」
「剣の極意なのに?」
意味が分からない、と首を傾げる美香に、薬師は呆れを深めるばかり。
「戦いってのぁ、結局博打だろーがよ。博打打って金貰うのと、素直に働くのどっちがお利口さんだ?」
「それは、働いたほうが……」
「それに桃太郎を見ろよ。剣を抜いた結果がこれだ。戦って勝ったからって最高の結果を生むとは限らんどころか、怪我は負うわで、損もある」
「なるほど……」
「ペンは剣より強いらしいぞ。つまり話し合いで決着がつけられる奴が最強、と」
「はあ……」
一応分かったらしい美香。
そんな美香に、薬師は言った。
「だが、お前さんはすぱすぱ剣抜いてろよ。脳筋なんだから」
「なっ!? それはあんまりでは!?」
「頭使うのぁ、お前さんの主と俺でいいだろうがよ」
ま、俺も頭脳労働派じゃないが、といいながらも、薬師は美香に向かって笑う。
「無理すんなよ。できないこた、任せとけ。お前さんは敵を斬ることだけ考えてろ」
言われて、美香は嬉しいやら、悲しいやら。
結局半人前か。しかし、頼らせてはくれるらしい。
「ま、いつかできるようになりゃいいけどな」
本当に、適当に薬師は言う。
「でもあれだ。お前さんは馬鹿正直なのがいいんだろ。馬鹿正直でいいんだよ」
なんでもないかのように。
「お前さんは真っ直ぐだから、俺やこいつみたいな捻じ曲がった奴には眩しくて、嬉しいのさ」
だからこいつも寄ってきたんだろ、と薬師は引きずる桃太郎を指差した。
―――
長らくお待たせしました気がします。
PCがぶっ飛んだり消滅したりした余波でまったく書く気が起こらぬこと数カ月。
一日で頑張りました。日曜がふっとんだ。
特に救いもなく、感動も山も谷もない。それが大天狗奇譚な気がします。
ついでに。
吉備津彦と桃太郎は今作では混合されてます。
さらについでに。
桃太郎の歌は江戸時代にはなかった気がします。