俺と鬼と賽の河原と。
可もなく不可もなく。
何の変哲もなく。
よくも悪くもありはしない。
昨日と変わることもなく。
相変らず、俺はラーメンを作っている。
其の五十四 屋台と今日と日常と。
俺の名前は一 三斗九升五合。
相も変わらず屋台店主をやっている。
朝、一組目。
じゃらついた男と無口な少女。
「らっしゃい!」
「あー……、俺ぁ醤油大盛りで。お前はどうする?」
男が少女に聞き、少女はメニューの一つを指差した。
「塩野菜頼む」
店主は、手早くラーメンを作り、二人に差し出す。
「塩野菜と醤油大盛り、お待ち!」
「おお、相変わらず美味そうだな……」
男と少女がラーメンに箸を浸け。
しばらくしたとき、ふと、男が声を上げた。
「そういやぁよ、店主さんは、センセイと、付き合い長いのか?」
「センセイ?」
店主はセンセイという言葉に心当たりがなく、聞き返す。
「ああ、あれだよ、如意ヶ嶽薬師、っていつも黒い服の」
そこで店主も得心がいった。
「ああ。常連でさぁね。初めて来たのは、二年前か。けど――、よく来るようになったのは最近かねぇ」
「そんな前に来てたのか?」
「一度二度、ね。その時は全く気にされてなかった訳ですがね」
そう言って苦笑する店主。
「よく来るようになったのはお客さんと来た時からですよ」
「そうだったのか……」
「ま、最近よく来るせいで家の娘がしきりに気にしてしゃあないんですが」
「センセイはここでも人を落としてんのか?」
男は呆れ、溜息を一つ。
「惚れた腫れたはどうしようもないもんですがね。それにしたってあれからフェロモンでも出てるのか」
「どっかに腰を落ちつければいいと俺も思うんだけどさぁ。あそこまで鈍感ってのはなぁ。ねぇよなぁ」
「お客さんだって、人のこと言えるかわかりませんがね?」
「え、俺?」
「なあ、お嬢ちゃん」
店主が笑いながら少女に同意を求めた。
少女は、真っ赤になりながらこくり、と肯く。
「え、何でだよっ? 俺が? ねーよ!」
「これは、前途多難だなぁ、嬢ちゃん?」
店主の言葉に、少女は恥ずかしげに肯いたのだった。
昼、二組目。
青鬼。
「らっしゃい、っと鬼兵衛さんじゃないか」
「うん。味噌叉焼頼むよ」
「どうしたんです? 愛妻弁当は」
茶化して聞く店主に、青鬼は優しげな笑みを返す。
「気持ちよさそうに寝てたからね、寝かせてあげようと思って」
「そうですかい」
「僕も近いうちに出張でね。家族サービスもできないから、少しでも楽させてあげようか、と」
「大変ですな。しかし、鬼兵衛さんも朴念仁というか、鈍感というか」
「やっぱり、そうかな……?」
「こういうときは、朝の短い時間でも一緒にいてやるもんですぜ?」
「うーん……、そうかぁ。次はそうしてみるよ」
「それがいい。っと、味噌叉焼お待ち」
「うん、いただきます」
青鬼がラーメンに口をつけた。
「そういや、薬師さんは、相変わらずですかい?」
「……相変わらずって――」
青鬼は苦笑を返した。
「そりゃ、相変わらずだよ。相変わらず、ね」
「そうでしょうな。あの朴念仁が治る日ぁ、一体何時になるのやら」
「千年経って駄目だったみたいだしなぁ、万年かかるのかな」
店主は虚空に呟く。
「馬鹿につける薬はないっていうが、朴念仁につける薬もないのかねぇ……」
夕方、三組目。
影薄い少女。
「へい、らっしゃい」
「あ、塩お願いします」
そう言って座る前髪で目の隠れた少女。
「へい、お待ちどう」
……。
「なんだかお客さん……。出番のなさそうな顔してらっしゃるね」
店主、身も蓋もない。
「……っ、店主さん!!」
ぶわっ、と涙を流す少女。
「どうやったら、出番ってっ!! 増えますかね!?」
少女も少女で、身も蓋もなかった。
「出番ないしっ……、告白してもあっさり受け流されるし」
どうでもいいが来る客来る客、朴念仁大天狗の話をしている。
「お客さん……」
そんななか、店主は迷える子羊に救いの手を。
「大丈夫。出番が多ければいいってもんじゃありませんぜ」
何の解決にもなってないけど。
「希少価値ってもんがあるんです。ですから、ここぞで出るのが肝心で、出番を増やしたって、意味ありませんぜ」
ダイヤモンドは少ないから価値があるのだし、はぐれメタルは倒すのが難しいから出てくれると嬉しいものだ。
「そんな、ものですかね……?」
「そんなもんです」
すると、少女は納得したようだった。
「じゃあ、私、頑張ってみます」
そう言って立ち去る少女。
「まあ、どう頑張っても閻魔やメイドには敵わないんでしょうがね……」
悲しげにつぶやいた言葉は、少女に届くことはなかった。
夜、四組目。
冴えないリーマン風の男。
「いらっしゃい」
「親父さん、醤油叉焼一つ」
初めて来る男だった。
冴えない、やつれた感じの男である。
「へい、お待ちどう!」
無言で箸を付ける男。
珍しく、会話は弾まなかった。
そして、どんぶりが空になった頃。
立ちあがった男が――。
包丁を取り出した。
「ごめんなぁ……、おっちゃん。ごめん、だけど。儲かってるんだろ?」
店主は、目をそらすことはしなかった。
ただ、真っ直ぐに見つめ。
「お客さん、そんな無粋なモン、置きましょうや。まだ、残ってますぜ?」
刃物に怯まぬ店主に、逆に追い詰められたように男は震えた。
「そ、そんなこと言ったって――」
まるで、詰まった物を吐き出すように、男は告げた。
「金が……、金がないんだよ……! 今月を乗り切ればどうにかなるのに……!!」
「お客さん……」
店主は、その言葉に、悲しげに眼を細め。
だが、毅然とした態度を崩しはしなかった。
「だが、そんなことはやっちゃいけねえ……」
「……っ!! だけど……、それでも……、――!?」
男は、言葉の途中で目を見開いた。
「それと、包丁ってのは、人なんてもんを切るためのもんじゃねえ。そいつは、料理を作るためのもんだ」
自分の手の中にあった包丁が、ない。
そして、いつの間にか、包丁が店主の指に、挟まれるようにして、そこにあった。
「――今晩は、ツケにしておきまさあね」
そして、男の丼に替え玉を一つ。
「こいつは、私からの奢りでさあ――」
泣き崩れる男。
「おっちゃん……っ、ごめん……、ありがとう……!!」
「いいってことよ。さ、伸びる前に食ってくだせえ」
「うん……! ああ、美味いなぁ……」
そこには、涙を流しながらラーメンをすする男の姿があった。
夜、終盤、最後の一人。
黒い着物の男。
「よ」
「らっしゃいい」
暖簾をくぐったのは、やる気無さそうな男だった。
「儲かってるかい?」
「ぼちぼちでさあね。珍妙な客なら、五人ほど来たんですが」
「珍妙な客?」
「内四人はお客さんとこの関係者でさあ」
「類は友を呼ぶ、と?」
「こちらとしては願ったりなんですがね。珍妙な客でも、客なら」
「そうかい」
「で、ご注文は?」
「味噌で」
「はい、お待ち」
「話しながら作ってたな? やっぱり予知でもしてんのか」
「いつも言ってると思いますがね、年の功でさあ。なんとなく、味噌が食いたいって顔に書いてあるのさ」
ラーメンを食べ始める男。
「そういや、里見ちゃんは?」
「今日は最近できた友人に連れられて仕事の手伝いをしてるようでさあね」
「ふーん、仕事?」
「とある、結婚式のプランナーで、偶然同名の人を見つけて気があった、ってのが本人談で」
「あー……、そいつ、知ってるかも」
「そいつはまた、何故」
「宣伝に使われたことがある」
「お客さんほど、結婚に向かない人もないと思いますがね」
「やっぱりそう思うか?」
「思うでしょう。やっぱり」
「そうかい。そう言うそっちはどうなんだ?」
「私の方は、今は手のかかる娘だけで、十分さ」
「そっちもそっちでやはり恋愛には向かない方だな」
「でしょうな」
そして男は、ぼんやりと上を見上げて一言。
「まったく、平和だな」
「ええ、平和です」
こうして夜は更けていく。
俺の名前は一 三斗九升五合。
相も変わらず屋台店主をやっている。
―――
店主編。
きっと若いころはやんちゃしてたんじゃないかな、と思ってみる。
そして、今日からテスト。
おかげさまで早く帰れて、作業時間が延びます。
半分雑記ですが。
今、友人の勉強を見ていたりするのですが、一定の成果が出るごとに、友人に萌絵が一枚支給されるという体制が取られていて、猫耳メイドをリクエストされたから藍音さんを提出しておきました。
絵は本職じゃないのですがね。
では返信。
見てた人様
満を持してついに露店少女です。
アクセサリが売れないのは多分営業☆努力のせい。
本人は最悪薬師にたかろうと思っているのかもしれません。
路地裏に逝って買ってくるのですか。ご武運を。
シヴァやん様
だがしかし、周りの人々はどちらかというと薬師にプレゼントされたい派。
やはり薬師が買う羽目に。
まあ、本人が本当に売りたいと考えてるのか微妙なところですが。
最終的に薬師のヒモに……。
スミス様
初めまして、感想ありがとうございます。
いやはや、如何ほど増えるのでしょうね、ヒロインズ。
むしろ、先生がずっと生きてたらそこで決着が着いてたんでしょうね。薬師からのフラグも立っていたようだし。
露店少女についてですが、そうです、あの骨だったり、髭だったりするあの人です。
通りすがり六世様
彼女がパパスだったら、色々とドラクエが凄まじいことに……。
まあ、何故あの人なの、って言われるとアクセサリの材料の入手場所ってどこさ。
という話になると思うので所謂両手を合わせてものづくりしたり、鍋に色々ぶっ込んでアカデミー卒業を目指したりする職業なわけです。
あの人……、あの人といえば、目隠れで地味なあの人は今どこに……。
秋野様
感想ありがとうございます。皆何故かパパスを連想するのですね。
私もその状況になったらパパスかと思うのだろうけども。というか死亡フラグ……、あ、もう死んでるや。
いやはや、既にテスト何問か落としてることが発覚済みで、参りますね。
まあ、たまにでも顔を出していただければ、狂喜乱舞するので、気軽に書き込んで頂けると幸いです。
SEVEN様
あのぺったん娘、会話がばっさばっさ進む挙句に嵩みますからね。
薬師はセンスがいいのか悪いのかさっぱりな男ですな。
私もあの一端でもつかめれば……。
フラグマスターの道は険しく遠いです。
yuuki様
まさかのパパスハウス……、あれ?
ハウスパパス? どっちでもいいか。ともかく。
有名人……?
人……?
奇々怪々様
貧血にならないか心配です。
貧乳はステータス、希少価値、などという言葉がありますが――、友の言葉を借りるなら。
巨乳には夢が詰まってる……、貧乳は、夢を与えてるんだ――。
混浴イベントは、どう考えてもおんせn……。そして、流石に若本だったら私がびっくりします。
社怪人様
コメントどうもです。
落ちついてパパス&ママスにすれば――!!
一文字多いです。
まあ、要するに某ホムンクルスを作ったり賢者の石を作ったりした方です。
ヤーサー様
いやはや、本当は二十話前に出てたのに、やっとですからね。
ちなみに家無し路上生活の模様です。屋根のある場所位ならあるでしょうが。
パメラスミスって、ガンダムの登場者か、タロットの画家だった気が……。パメラ・スミス。
ブライアン、彼は最強主人公スペックを誇り、きっと生前家のメイドを相手にフラグを立てて……。今のところはフラグの予定はありませんが、どうなるかは未定ですな。
あも様
なんだか、微妙に合ってるような気がしないでもないです。
そして、相手が銃剣使う神父とかだったらかなりきついですね。
その内宗教組織編が始まりそうな。
確かに、あの喋りはどちらかといえば髭なあの人ですね、実際、本当に本物って訳でもないわけですが。
ミャーファ様
飾り、飾りでも、あった方がいいのか……。
ジオングよりもパーフェクトジオングなのか……。
求める者に無く、求めぬ者のもとにある。
そう言うものなのか……、世界は。
f_s様
そう、露店少女はパライメロス……!
誰でしょう。
そして、漢を見ました。例え他の人には不審者でも、きっと違います。
それは険しくも、尊い道です。
マリンド・アニム様
感想感謝であります。
バルサミコス……、人、人……?
そう言えば、あんまり貧乳をプッシュする子はいなかったなぁ。
そして、地獄ですので、信じて揉めば……。
Eddie様
「……ぶるぁあああああああああ」
「何事だ」
となることでしょう、若本だったら。
頑張って若本の真似をする女の子……、それはそれでありかも知れな……。
やはり露店少女は書く側としても書きやすいです。
代わりに、場面描写と展開がアレなことになるのですが。
やっさん様
ぱ、パンツヌガスだって……!?
実在しそうだから怖い。
実は薬師は天狗じゃなくてフラグ妖怪なんじゃないかと思い始める今日この頃です。
ただ――、薬師になるとものっそい疲れそうな予感がします。
春都様
また――、フラグです。
後どれくらい増えるのか……。
目指せ百越え。
露店少女は中々出てこれなかった分頑張っていただきたいです。
では、最後に。
店主自重。いや、あえて自重するな。