と賽の河と。










番外之三 俺と彼女とあの子と挙式と。








 今回の話は、とある手紙から始まる。




 朝の、食卓でのことだ。

 最近飯を作ることが多くなった俺は、たまに寮の食事に頼らず、自分で作るようになった。

 まあ、基本的にうちは由美がよく食べるのでカレーとかそういうものが多いわけだが。

 ともあれ、今日に限って言えば、肉じゃがと、味噌汁と焼き魚が食卓に乗っかっているわけだ。


「んー、由美も髪の色、変わってきたんじゃないか?」


 味噌汁を手に持ちながら、言う。

 実を言うと、鬼になる際に外見的特徴が変わるというのはよくある話だったりする。

 人間終了の際に、あちらこちら色素が増減変更されたり、人としてのありようを失うのだから、人として有り得ない色が出ることもあるそうな。

 その場合、由美は金髪、というよりは淡い茶、黄土色に近い色になってきているようだ。

 わかりやすい話、霊だからなら人間の名残があってもおかしくないが、鬼にまでなったなら、色素欠乏してもいいよね、という訳だ。


「そう、ですね。だんだん茶色っぽく」


 そう言った由美にを余所に、由壱が俺に聞いた。


「兄さんは髪の色に好みはあるの?」


 む、と俺は口に手を当て考えて。


「黒髪和服美人」

「いや……、和服のところまでは聞いてないんだけど」


 いや別にあれなんだけどな。

 ただ、その髪色の似合う姿、って奴が肝心だと俺は思うんだ。

 で、なじみの深い黒、そして黒髪と言えば和服、これに限る。

 うんうんと頷いて味噌汁を胃に流し込む。


「黒髪の女性……」


 由美がひとりでに呟いていた。

 大人の女性に憧れる年頃ってやつか。


「さて……、ごちそうさん」


 味噌汁を含む、茶碗と皿はもう空だ。

 俺は立ち上がり、食器を片づけようとして――。


「ん?」


 かしゃり、という音が響き、家の郵便受けに何か入ったことに気付く。


「なんだ?」


 俺は玄関まで歩いて行き、一通の手紙を取る。

 そして、おもむろに開封。

 ……えーと、なんだって?





どうもこんにちは。

当方地獄式場のエリベールと申します。




 エリベール、な。

 聞いたことはある。

 何でも地獄で式を挙げるならまずはそこ、という最大手。

 ではない。

 ぶっちゃけると、多分儲かってない。




今回につきましては、私どもが来週開催する愛する家族と式をキャンペーンのイメージキャラクターとして、如意ヶ嶽薬師様、安岐坂由美様に参加していただきたく連絡いたしました。




「は……」


 何故に式?

 しかも俺と由美で?




もし、参加して頂けるのであれば、こちらに連絡を。




「……」

「……けっこんしき……?」

「ぬぉ?」


 驚いて振り向くと、そこには由美がいる。

 俺はそんな由美に苦笑いで聞いた。


「てな話だが、流石に俺とじゃ、無理だよな?」


 が、それを由美は首を横に振って否定する。


「全然そんなことはありません!!」


 おお、父親としては嬉しいことを言ってくれる。

 だが、まあ。


「じゃあ、どうする? お前さんに任せるよ」


 と、俺は全権を由美に委ねる。

 すると、由美は少々迷っていたようだったが、次第に口を開いた。


「じゃ、じゃあ……、お父様が、私なんかでいいなら……」


 その言葉に、俺は笑顔で肯いた。


「そうか。じゃあ、行こう」


 由美が自分の意見をちゃんと主張できるのはいいことだ。








 と、まあ、一通の手紙により、話が始まるわけである。







「ようこそお越しくださいました! 一同歓迎いたします!」


 そう言ったのは、金の髪を後ろでアップに纏めたバーテンのような格好の女性だ。


「まあ、来たけどな。なんで俺らなのやら、外見年齢二十中盤と、十歳前後だぞ?」


 実年齢はせん……、ごほんごほん。

 年の差って格じゃねーぞ?

 が、目の前の女性は笑顔を崩そうとはしなかった。


「ええ!これが理想です!! 地獄だからこそ、年の差になど囚われず、もっと自由に考えることが大事なのです。そう、本来は結婚式とは夫婦の契の場ですが、ここ地獄においては、家族となった際の祝いに、そういうことなのです!」


 なるほど。

 要するに地獄で結婚する人間は多くないから儲からない。

 夫婦の結婚だけじゃ儲からないから家族登録で式を挙げることを一般に広めれば儲かりやすい、と。


「まあ、いいけどな。で、なにするんだ?」

「簡単に言えば、衣装を着て写真を撮るだけです。それと、こちらのリサーチ不足で招待できなかった由壱君についても衣装を用意したので、是非来て出てください」


 話を聞くと、街を歩く俺と由美を見つけて、琴線に触れたとかうんぬんで名前と住所を調べたんだそうな。

 その際に、由壱は居なかったので普通にスルーされてた。

 が、まあ、見るならいいだろう、ということで、由壱も連れてきていたのだが、どうやらあちら的にはありらしい。

 というか、喜んでらっしゃる。


「では、着替えてきてください。……ふふふうふふふふふ、素敵な親子……」


 申し訳ない。

 すごく逃げだしたくなってきた。













 まあ、ともあれ。


「ど、どうですか…?」

「似合ってる似合ってる」

「あ……、本当ですか!?」


 思えば、ウエディングドレス、というものに女という生き物は特別な思いを寄せたりする。

 昔の部下もそのようなことを言っていた。

 ま、初の相手がこの年では格好付かんが、そこは承知の上だろう。


「よくお似合いで」


 そう言って、バーテンの格好をした――、


「そう言えば名前知らん」

「あ、私月見里 里見ともうします」


 里見が俺と由美のもとにやってくる。


「俺には馬子にも衣装だな」


 現在の俺の衣服は白タキシード。

 なんとなく、落ち着かない。


「いえいえ、そんなことはありませんよ――、どうやら由壱君も終わったみたいです」

「兄さん!」


 黒いタキシードの由壱がこちらへやってくる。


「おーおー、似合ってんじゃねーの?」

「そうかな?」


 俺は照れる由壱の背を叩いた。


「じゃ、始めましょうか」


 その言葉に、俺達の式が始まった。














「病める時も、健やかなる時も、死んで尚――、汝、安岐坂由美は、如意ヶ嶽薬師の家族であり続けることを誓いますか?」

「はい」


 由美が肯く。


「病める時も、健やかなる時も、死んで尚、汝、如意ヶ嶽薬師は、安岐坂由美の家族であり続けることを誓いますか?」


 俺は、肯いて、言おうとする。


「は――」


 その時だった。


「ちょっと待ったぁっ!!」


 バンっ、と式場の扉が強引に開く。

 その逆光の向こうに居たのは――、前さんだった。

 まさに、新郎から花嫁を掻っ攫っていく、ドラマなら見せ場だな……。

 色々間違っている気もするが。


「じゃら男がロリコンだの何だのと言ってるくせに! 自分はロリと結婚か!!」


 ずかずか、もしくはどしどしと赤い絨毯の上を歩いてきて、前さんは俺の肩をがっしり掴んで揺する。


「別に! ロリコンでもいいけど!! でも! だったら!! 私が!!」


 すまん、何言ってるんだかがくがく揺らされてるせいで聞こえん。

 いや、俺がロリコンだと泣くほど悲しいのはわかったから。


「ま、ままま、待て。前さん、揺さぶられると状況説明も上手くいかん」


 いや、他の一同も呆けてないで止めようか。

 おもに里見さん。

 説明の義務は貴方にある。

 そんな感じの視線を送ったら、通じたか通じていないのか、里見が前さんのもとへ駆け寄り。


「――、これは、ありね!! スタッフ、強制連行!!」


 里見が右腕を上げると同時、前さんは抱えられて連れ去られていった。


「ちょえ? 薬師?」


 ドップラーな効果で声が小さくなっていく前さん。

 何が起きたのか。


「で、前さんは何処へ連れて行かれたのかな?」

「すぐわかりますよ、すぐに」


 意味ありげな微笑を浮かべる里見。

 その真意はすぐに知れることとなる。











「や、薬師……、どう、かな?」


 そこには白くてふわっふわの前さんが立っていたり。

 ……。


「いや、似合ってる、けど……、説明を、里見さんよ」

「いい幼女!!」


 親指をぐっと立てる里見。

 大体わかったがわかりたくないな。


「で、続けるのか?」

「はい! お願いします」









「はい、じゃあ、両側から二人の腰を抱いて持ち上げるような感じでー、そうそう、お二人は薬師さんの首元に腕をまわして」


 じゃ、行きますよ、との声が響いた、その瞬間。


「ちょっと待ってください!!」


 またか。

 この展開。

 今度は、暁御か。


「ふ、二人でいいなら私も――!!」


 お前は何をいっとるんだ。


「じゃ、レッツゴー!!」


 里見も悪乗りするな。







「じゃあ、今度はさっきと同じようにして暁御さんは後ろから、そう、そんな感じで薬師さんの頭の横から顔を出して――」


 いきますよー、の声とともに、俺は嫌な予感を感じていた。


「ちょっと待った!!」


 はいはい、この展開は飽きたよ。

 何人来るのか知らないが。

 李知さん、そんなに俺は犯罪者に見えるのか?


「わ、わ、私が監督しないとやってはいけない方向に走りそうだからな! 共に参加して道を踏み外さないよう見守ってやる!!」

「これは……、予想以上のものができそうだわ……」







「じゃ、李知さんは横から寄り添うように――」

「…こうか?」

「はい、じゃあ薬師さんの肩のあたりに手を当てて――」

「ちょっと待ちなさい!!」


 はははははは、げんなりだぜ!

 俺の信用のなさが見てうかがえるな!!

 なあ……、俺帰っていいかな。


「あ、あな、貴方は李知まで誑し込んで! 誑かすのなら私一人でいいじゃないですか……っ!!」


 いや、落ちつけよ。

 涙目になってないで落ち着こうか。


「こ、これは閻魔まで……、種族どころか身分差までスルーッ!! これはすごいですよ……、予想外の者ができそうです……」









「じゃあ、閻魔様は薬師さんの正面から寄り掛かる感じで――」

「こう、ですか?」


 五人の花嫁たちに埋もれる俺。

 おかしいな……、この世の天国と思えるほどなのに、涙が出てくるよ。

 あの世だからか。

 ふふふ、由美はともかく残った四人は俺が信用されてない証なんだよな……。

 半分はドレスへの興味だろうが。

 そう考えると、余計に悲しい。

 もう、どうにでもなれ。


「はい、いい絵がとれましたよー、うーんじゃあ、次は薬師さんにウエディングドレスを着せてみるというのは――」


 いやどうにでもなりたくないな。


「でえいッ!!」


 上着の襟を前面に叩きつけるようにして俺は逃げた。


「あ、逃げました!!」


 里見の声に、閻魔が叫ぶ。


「捕らえなさい!!」


 落ちつけ!


「待て、閻魔よ! 次の夕飯ハンバーグにしてやるから落ちつけ!!」

「仕方ありませんね…」


 物わかりがいいなおい!


「って……、まさかお前、閻魔様に食事を作りに行ってるのか?」


 李知さんの言葉に、一同の視線が集中。

 どうやら、俺は地雷原に足を踏み入れたようだ。

 じゃら男、俺は生きて帰れるのだろうか――。







 今日も河原は――。

 むしろ俺に平和が欲しいのだがどうだろう。













おまけ



「そ、染め粉ってありませんか?」

「由美ちゃん? どうしたの?」

「い、いえ。できれば黒い髪に直したいんです……、できれば和服も欲しいけど……」

「あー、馴染みがあるから?」

「え、あ、はい、そのようなものです」



 という一幕があったとかなかったとか。








―――



番外其の三です。

なんか、リクエストがだいぶ前あったような――、気が、した、んで、すけど。
気のせい……、じゃないですよね?
私の記憶力がどれだけ信用ならないかと言われると道端で痩せる薬を売ってる人並みなんですけど。
ありましたよね?









さて、返信。


00113514様

いや申し訳ない。
私も何故ジョブチェンジしてたかわからないです。
ともあれ、修正しておきました。
指摘どうもです。


スマイル殲滅様

予想してないところからの奇襲攻撃。
これが――、鬼っ娘……?
薬師は、本人には全く適用されないのに人生経験の長さ故に中々の制度を誇るという。
むしろ、李知さんと前さんには教室というか、運営連合が……。


ねこ様

あれですね、短編的な内容でトリッパー的なものと絡ませてみたくはあったり。
李知さんに関しては、もう登場を待て、としか……、駆け足でキャラを出し過ぎた感があるかもしれませんが、まずはばっと世界を用意して、ゆっくり動かしていく、というのがコンセプトなので。
薬師のでない話、というのもやってみたい内容ではあったので、余裕ができたらやりたいかな、と思います。
が、閻魔妹とか、天狗な部下とか、色々あるんですよねー。


妄想万歳様

きっとあれですよ――。
薬師の殴り方が上手くていつもより激しく奇声を……。
しかも耳が弱い前さんは、そのまま猫のように抱えられたまま、微妙にこそばゆいのに耐えながら話に加わるという素敵な状況。
ちなみに、薬師が勉強に超乗り気だったのは超仕事したくないからです。









では、最後に。

出番がないと言えば青野鬼兵衛とか……。