その日、俺は、とある少女と出会った。







と賽の河原と。

 番外 俺と私と彼と屋台と





 俺の名前は一 三斗九升五合。

 お客さんには、分かりにくいかもしれないが――、

 にのまえ しとない、と読む。

 まあ、しがない屋台店主さ。

 そして俺の屋台の前に座るのが、今日の客。


「それがなあ、聞いてくれよ店主さん。最近、全く上手くいってないんだ。なにもかも、それで、いつもつまらない顔してるって言われて。おかげでもっとテンションは下がるし」


 俺は、店主という立場で、人の愚痴を聞かされることが間々ある。

 いや、頻繁にあるか。

 だが、いやだとは思っていない。

 こういうとき、人は嘘を吐かなくて。

 本音をぶつけてくる。

 それが俺には嬉しくて。

 ついつい余計なことまで言っちまうもんだ。


「そうですかい。ですがね? すべてが順風満帆な時、笑っているのは簡単で。本当に苦しい時でも笑ってられるのが、本物の男なんですぜ?」


 今まで、俯いていた会社員のような装いの男が、不意に顔を上げた。

 俺は続ける。


「まあ、いつでも笑ってろなんて言えやしませんが。せめてそういう時はいつか笑ってやる、ってくらいの気概で行ってみるもんです」


 かく言う俺も、地獄に来てから屋台を開業するまで色々あった。

 だが、俺は屋台がやりたかったから、ここまで来たのだ。


「店主さん……。俺、もうちょっとやってみるよ。いつか――、絶対笑ってやる」


 俺の言葉は、お客さんに響いたのかな?

 だとしたら、うれしいねぇ。


「いつか、なんてアテにならないな、今がその時さ」


 言うと、お客さんは、最後に不器用に、それでも最高の笑みを見せて帰って行った。

 これだから、屋台はやめられない。









 そのようにして、俺は今日の商売を終え、屋台を引きながら家へと向かっていた。


「しかし、今日は冷えるねえ……」


 今の地獄の季節は冬。

 ほんのりと道に乗った雪は白く、そして吐く息も白い。

 そんな真っ白な住宅街。

 そこで俺は――、地面に座り込む、少女を見つけた。

 なんとなく、放っておくのも憚られて、声を掛ける。


「どうしたんだい、そんなところで」


 その少女は、小さく、震えていた。


「別に、何も……」


 少女はぽつりと、返事を漏らす。

 が、どう考えても何もな状態じゃない。

 その細い肩には雪が積もり、上着、確かワッフルコートだったかダッフルコートだったかは、もう白い。

 更には、その鳶色の長髪は、凍っていた。

 そんな少女を、俺は放っておけなくて。


「そうだ嬢ちゃん。一杯食っていかないかい? 俺の与太に付き合ってくれるなら、奢りだ」


 そう言うと、少しの間少女はぽかんとしていたが、それが終わると、

 俺が用意した屋台の席に座った。


「よし、それじゃあちょっと待ってな、何がいい?」


 すると、少女はしばらくメニューを見ていたが、

 やがて口を開く。


「塩野菜ラーメン」

「へい塩野菜ラーメン一丁!」


 言いながら、食材を取り出し、フライパンに油をひき。

 野菜を炒め始める。

 同時に麺も準備する。

 野菜を焼く音が響き渡る中、俺は少女に聞いた。


「どうして、あんなとこに座りこんでたんだ?」


 少女は、答えなかった。

 ただ、野菜を炒める音だけが耳朶を打つ。

 そして、俺が諦めて料理に集中しようとしたとき、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。


「私、転生までここで働こうと思って、就職したんだけど。だめだった」

「何が?」

「……私、思ったより寂しがり屋だった」


 地獄に放り出されれば、人はみな一人になる。

 俺はついぞ所帯を持つことなんぞ無かったが。

 だが、目の前の少女はまだ、親元にいてもおかしくはない年頃のはず。


「だから、あんな所に座りこんでたのかい?」


 少女は伏し目がちに肯いた。


「うん。なんとなく、不安で、世界に一人きりみたいな気がして、怖くて」

「そうかい。だけど、俺はここにいるし、愚痴ぐらいなら幾らでも聞く。一人じゃないんさ、俺も、お客さんも」


 俺は、人一倍と触れあって来た。

 陽気な客。

 暗い客。

 怒った客。

 泣いてる客。

 その誰とも出会う機会があって、接してこれたこの仕事に俺は誇りを持っている。

 と、そこでラーメンが完成した。

 俺は、彼女の前に、どんぶりを置いて、俺は深呼吸して――、

 告げた。


「なあ、俺の娘になってみねぇか?」



 俺は、今でもこの時の娘の呆けた表情を鮮明に思い出せる。









 それから、しばらく経って。


「お父さん、ハンカチとティッシュもった!?」

「いいや、そもそも男にそんなもんは――」

「いいから早く!」

「いや、……わかったわかった自分でやるから。やめてくれ里見」

「まったく……、お父さんは私がいないと何もできないんだから!」

「ああ、ああ。それも耳にタコができるほど聞いた。だから早く行かせてくれ」

「しょうがないなぁ……、私は今日は手伝えないけど」

「ああ。それじゃ、行ってくる」

「うん、気をつけていってらっしゃい。お父さん」




 俺の名前は一 三斗九升五合。

 お客さんには、分かりにくいかもしれないが――、

 にのまえ しとない、と読む。

 まあ、しがない屋台店主さ。

 そして最近、女房みたいな――、口うるさい娘ができた。





―――

突然番外。
不意に思いついて書いた。
後悔はしてない。
ただまあ、兄妹編執筆の合間に書いたサイドストーリーなんでちょいと短いです。




では、返信を。


妄想万歳様


李知さんは、いいいじられキャラです。
きれいでクール、と見せかけて可愛い、そこがいい。
と言うのは置いておいて、兄妹編は鋭意執筆中でございます。
やっと半分終わったんですけど、その休憩にやってた番外編がなんかできちゃった、と。
きっと、明日明後日には色々できてるんじゃないかなぁ?



山椒魚様


はっはっは、李知さんがなんか人気です。
作者の予想を超えて。
みんな、どSなのか……!?
ちなみに、李知さんはじゃら男の担当ですが、じゃら男は李知さんはストライクゾーンから外れていて、ちょっと苦手だそうな。



七様


感想感謝です。
店主に惚れた特殊なあなたへ番外編をお送りしませう。
ちなみに、彼には二人娘がいます。
現世に一人、地獄に一人。
現世の方は、姉夫婦が事故で死亡した後引き取ったそうな。
里見ちゃんの件も、現世の娘に微妙にダブったからじゃないかと。


ザクロ様


ぶっちゃけ、微妙な引きで待たせてたりするのに番外とか描いちゃってる兄二です。
さてさて、質問の内容ですが、
鬼は基本生前の色に左右されますが、たまーに変化の際一緒に髪色も変わることがあります。
ただ、いろんな人種が集まるので、それでなくてもまぶしいほどカラフルです。
法律は、さして変わる所はなし。
ただ、微妙な地獄ローカルルールはある。
身体能力は、鬼は大分アップ。
普通の人は自分はこんなもんだろうな、という、本人のイメージに依る。
故に基本的には生前と変わらない。
一般人でも、俺は強いと勘違いしていれば、結構高い身体能力が手に入る。
ただ、実際に体験した事でないとイメージできないので、なかなか難しい。
とこんなもんです。




それでは最後に。

店主、説教を一丁。